導入

「ペルソナを作りましょう」と言われても、年齢、住所、年収、趣味、休日の過ごし方まで書いた人物表を、小さな会社が何枚も作る余裕はありません。しかも、作ったのに使われないまま、引き出しにしまわれる例は珍しくありません。

この記事は、ペルソナの意味から、小さな会社が使える形の作り方までを順に説明します。先に結論です。

  • ペルソナは「お客さんの平均」ではなく、狙う人の特徴を「ひとりの人物」として表したものです。実在のお客さんそのものではなく、お客さんの声や記録から組み立てます。
  • 小さな会社は、凝った人物設定より、判断に使う項目から始められます。「状況・困りごと・探す言葉・決め手・不安」の5項目です。
  • 作る材料は想像ではなく、今いるお客さんです。

1. ペルソナとは何か

ペルソナは、商品やサービスを使う典型的な人を、ひとりの人物として具体的に描いたものです。もとはラテン語で、演劇で使う仮面を指す言葉でした。そこから「人格」「役割」を表す言葉になり、ソフトウェアの設計の分野で「使う人を具体的に思い浮かべるための人物像」として広まりました。アラン・クーパーが、著書を通じてソフトウェアの設計手法として広めたとされます。今ではマーケティングやWebサイトづくり、商品開発でよく使われます。

大事なのは「具体的なひとり」であることです。「30代の女性」は集団の説明です。「子どもを保育園に預けて、17時までに仕事を終えたい、小さな会社の経理担当の人」まで絞ると、ひとりの顔が見えてきます。顔が見えると、その人に何を言えば伝わるかが、急に考えやすくなります。

ターゲットとの違い

ターゲットとペルソナは、似ていますが役目が違います。

ターゲット ペルソナ
何を表すか 狙う集団 狙う集団の特徴を、ひとりの架空の人物として表したもの
例 30〜40代の働く女性 保育園の迎えに間に合うよう、17時に仕事を終えたい経理担当
役目 市場の範囲を決める 言葉・見せ方・導線を決める

ターゲットで「だれの範囲か」を決め、ペルソナで「その中のだれに話すか」を決める、という順番です。ペルソナは実在の個人ではなく、調べたことから組み立てた人物像です。

2. なぜ必要か:「誰に」がぶれると、全部がぶれる

発信がぶれる原因の多くは、「誰に」が決まっていないことです。

  • サイトの文章が、初めて知る人にも、長年のお客さんにも向いてしまい、どちらにも刺さらない。
  • 投稿のたびに話し方が変わる。担当者によって言うことが違う。
  • 商品を足すたびに、誰のための会社なのかが見えにくくなる。

「誰に」がひとり決まっていれば、迷ったときの物差しになります。「この人はこの言葉を知っているか」「この人はこの順番で知りたいか」と、判断を一人の顔に戻せます。人が増えても、社内で同じ人を思い浮かべられるので、言うことがそろいます。

3. 小さな会社はどこまで作り込むか

大手の解説記事には、名前、年齢、家族構成、年収、趣味、よく見るSNSまで並べた表が載っています。大きな会社では、多くの部署が同じ人物を共有するために、細かく書く意味があります。

会社の規模より、判断に使うかどうかで項目を選びます。細かく作るほど、想像で埋める項目が増え、現実のお客さんから離れていきます。作り込みの目安は次のとおりです。

  • 要る:その人の状況、困りごと、探す言葉、決め手、不安。
  • 要らない:名前の由来、血液型、休日の細かな過ごし方など、判断に使わない細部。

判断に使わない項目は、書かなくて構いません。名前は呼びやすいように付けてもよいですが、必須ではありません。

4. 作り方の4ステップ

ステップ1:今いるお客さんの材料を集める

いちばん確かな材料は、すでに買ってくれた人、問い合わせてくれた人です。「この人は良いお客さんだった」と思える3人を思い出し、問い合わせの記録や、本人に聞けることがあれば確かめます。理想のお客さんではなく、実在した人です。個人が特定できる情報は、書き写さないようにします。

まだお客さんがいない創業期なら、見込み客に聞き取りをして仮の人物像を作り、反応を見て直します。

ステップ2:共通点を探す

3人の共通点を書き出します。年齢や職業より、次のような「状況」が共通していることが多いです。

  • 何がきっかけで探し始めたか
  • 探し始める前に、何に困っていたか
  • 決める前に、何を比べたか
  • 最後に、何が決め手になったか

ステップ3:場面を一文で書く

共通点から、「こういうとき、こういう人が、こういうことで困っている」という場面を一文にします。ペルソナは、人物の紹介文より、場面の方が使えます。

ステップ4:ひとりに絞る

似た困りごとや選び方をまとめて、ひとりの人物像にします。確認できたことと、仮説は分けて書きます。数値の平均を取ると、誰にも当てはまらない人物になるので、場面で描きます。お客さんの違いが大きければ、人物像を追加します。

5. 書く項目の型

小さな会社向けの最小限の型です。紙1枚、各項目2〜3行から始められます。

  1. 状況:いつ、どこで、どんな立場でその商品を考えるか。
  2. 困りごと:いま何が解決できていないか。
  3. 探す言葉:検索やSNSで、実際に打つ言葉。自分の会社の言葉ではなく、お客さんの言葉で。
  4. 決め手:最後に選ぶ理由。価格、速さ、安心、相談しやすさなど。
  5. 不安:申し込む前に引っかかること。

この5項目は、そのままサイトの文章の設計図になります。「探す言葉」は題や見出しに、「不安」はよくある質問に、「決め手」はサイトの一行目に使えます。

6. 書き方の例

実在の会社の数字や事例は使わず、例の形だけを示します。

例1:税理士事務所
– 状況:個人事業から法人にしたばかりの社長。経理は自分で見ている。
– 困りごと:何を相談すればよいのかも分からない。
– 探す言葉:「法人化 税理士 いつから」
– 決め手:専門用語を使わずに話してくれること。
– 不安:顧問料が高いのではないか。

例2:地域の工務店
– 状況:築30年の家のどこから直すか迷っている夫婦。
– 困りごと:見積もりが会社ごとに違い、比べ方が分からない。→ サイトのよくある質問に「見積書の見方」を載せる。
– 探す言葉:「リフォーム 見積もり 比較」
– 決め手:現場を見たうえで、優先順位を一緒に決めてくれること。
– 不安:しつこく営業されないか。

例3:ハンドメイド雑貨のお店
– 状況:友人への贈り物を、数日以内に用意したい人。
– 困りごと:ありきたりな物は避けたいが、選ぶ時間がない。
– 探す言葉:「プレゼント 友達 手作り」
– 決め手:包装済みで届き、納期が明記されていること。
– 不安:写真と実物が違わないか。

どの例も、人物の細かな設定ではなく、「状況」と「決め手」が中心です。

7. よくある失敗

  • 空想で作る:理想のお客さんを描くと、現実に来る人とずれます。必ず実在のお客さんから作ります。
  • ひとりに絞れず、平均になる:「30〜50代の男女」のような広い設定は、ターゲットのままです。
  • 確かめずに決める:仮説を事実のように書くと、ずれたまま使われます。確認できたことと仮説を分けます。
  • 作って終わる:作った紙が引き出しにあるだけだと、何も変わりません。サイトの文章、投稿の題、問い合わせの導線に使って、はじめて意味があります。
  • 細かく作りすぎる:判断に使わない項目で、作る負担だけが増えます。

8. 作ったあとの使い方

  • サイトの一行目:ペルソナの「状況」と「困りごと」を、その人が使う言葉で書く。
  • 投稿や記事の題:「探す言葉」をそのまま題に入れる。
  • よくある質問:「不安」を一つずつ、先に答える。
  • 問い合わせの入口:「決め手」を、申し込みボタンの近くに置く。

一度作ったら、お客さんの声が増えたときや、来るお客さんが変わったときに見直します。新しく来たお客さんと照らし合わせて、合わない所を直します。

9. ペルソナは「古い」と言われるのか

検索すると、「ペルソナ設定は古い」という声も見つかります。理由として挙げられるのは、お客さんとの接点が増え、ひとりの人物に収まらなくなったこと、行動データをもとに一人ひとりに合わせた提案ができるようになったこと、などです。

確かに、大きな会社が多くの商品とチャネルを扱う場合、ひとりの人物では足りないことがあります。ただ、小さな会社では事情が違うことがあります。お客さんの数が限られ、顔が見える距離にいるぶん、実際の声から作ったペルソナは、発信のぶれを防ぐ軽い道具として働きます。大事なのは、作って終わりにせず、現実のお客さんと照らし合わせて直し続けることです。

10. 生成AIはペルソナ作りに使えるか

ChatGPTなどの生成AIに、ペルソナの叩き台を作らせることはできます。ただし、AIの出力は、実際のお客さんを裏づける証拠にはなりません。そのまま使うと、現実のお客さんとずれることがあります。

使いどころは、次のように分けると安全です。

  • 使える:自分で集めたお客さんの声を、個人や取引先が特定できる情報を除いて貼り付け、共通点の整理や言葉の整えを手伝わせる。
  • 使えない:何も材料を渡さずに、ペルソナそのものを作らせる。

材料は、あくまで現実のお客さんから取ります。

よくある質問

Q. ペルソナとターゲットは、どちらを先に決めますか?
A. ターゲットが先です。狙う範囲を決めてから、その中の典型的なひとりをペルソナにします。

Q. BtoB(会社相手の商売)でも要りますか?
A. 要ります。ただし、会社の情報と、担当者個人の困りごとの二つを分けて考えます。決める人と使う人が別のことも多いので、誰に向けて話すのかを先に決めます。

Q. 何人作ればよいですか?
A. 最初はひとりから始めるのが扱いやすいです。お客さんの違いが大きければ、人物像を追加します。

まとめ

ペルソナは、お客さんを細かく設定するための道具ではなく、「誰に話すか」を決めるための道具です。小さな会社は、実在のお客さんの声や記録を集め、状況・困りごと・探す言葉・決め手・不安の5項目を、紙1枚に書くところから始められます。

認知は、「誰に届けるか」が決まってから始まります。自分の言葉ではなく、その人の言葉で話すことが、選ばれる最初の一歩です。

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