導入

「ブランドコンセプトを決めましょう」と言われても、何を、どこまで決めればよいのか分からない。少人数の会社では、どこまで言葉にすれば実務に使えるのでしょうか。立派な言葉を作っても、名刺にもサイトにも出てこなければ意味がありません。

この記事は、ブランドコンセプトの意味から、小さな会社が「一文」にして使うところまでを順に説明します。先に結論です。

  • ブランドコンセプトは「誰に、どんな価値を、なぜ届けるか」を短く言葉にしたものです。
  • 小さな会社に要るのは、長い理念書ではありません。社内の全員が同じ答えを言える「一文」です。
  • 材料は想像ではなく、今いるお客さんが「あなたの会社を選んだ理由」です。

1. ブランドコンセプトとは何か

ブランドコンセプトは、そのブランドが「だれのために」「どんな価値を」「どんな考えで」届けるのかを、ひとまとまりの言葉にした、ブランドの中心にある考え方です。

もう少し身近に言うと、「うちは、何屋さんで、だれの何を助ける会社か」への答えです。この答えが決まっていると、商品、価格、サイトの文章、採用の言い方まで、同じ方向にそろえやすくなります。

大事なのは、飾りの言葉ではなく「判断に使える言葉」であることです。たとえば新しい商品を出すか迷ったとき、コンセプトに照らして「うちの会社らしいか」を決められるなら、それは使えるコンセプトです。

2. 似た言葉との違い

混ざりやすい言葉を、役目で分けて整理します。

言葉 何を表すか ブランドコンセプトとの関係
企業理念 会社が大事にする考え・使命 もっと大きな土台。コンセプトは理念を、お客さんに向けて具体にしたもの
ブランドアイデンティティ ブランドが示したい価値観や個性。名前・ロゴ・話し方などにも表れる コンセプトを見た目や言葉に落とした全体
キャッチコピー 外に向けた短い呼びかけ コンセプトを人に伝わる形にした一例。コピーより長期的な軸になる。ただし事業やお客さんの変化に応じて見直す
USP 他社にない、選ばれる理由 コンセプトの「独自性」の部分に当たる

順番にすると、理念が土台にあり、その上にコンセプトがあり、そこから見た目・言葉・キャッチコピーが生まれます。コンセプトは、全部の「元の一文」です。

3. なぜ小さな会社ほど必要か

大きな会社は、部署や仕組みで統一を保てます。小さな会社は、社長の頭の中にある考えが、そのまま会社の方針です。けれど、それが言葉になっていないと、次のようなことが起きます。

  • 発信のたびに言うことが変わる。サイト、名刺、SNSで、違う会社のように見える。
  • 値段が決められない。何を基準に高い・安いと言えばよいか分からない。
  • 新しい人が入ったとき、「うちは何の会社か」を説明できない。
  • 仕事の依頼が来るたびに、受けるか断るかで迷う。

どれも、判断の軸が共有されていないことが一因です。コンセプトは、その軸を言葉で持っておくためのものです。人数が少ないほど、一文あるだけで、判断の方向を共有しやすくなります。

4. 基本の4要素

ブランドコンセプトは、次の4つがそろうと形になります。

  1. ターゲット:だれのためか。「全員」ではなく、いちばん助けたい人。
  2. 提供価値:その人に、何をもたらすか。商品の機能ではなく、その人の状況がどう変わるか。
  3. 独自性:なぜ他社ではなく、あなたなのか。
  4. 世界観:どんな考え方・雰囲気で届けるか。

この4つを、そのまま一文にする必要はありません。まず4つを箇条書きで書き出し、そこから文にします。

5. 作り方の5ステップ

小さな会社向けに、道具を使わず、1週間ほどで終わる形にしました。

ステップ1:今のお客さんを思い出す

新しく調べに行く前に、ここ1年で「いい仕事だった」と思うお客さんを3人、書き出します。業種や規模ではなく、どんな状況で、何に困って、あなたに声をかけたかを書きます。

ステップ2:選ばれた理由を集める

その3人に、あるいは日ごろのやり取りから、「なぜうちを選んだのか」を拾います。自分では当たり前だと思っていることが、選ばれた理由になっていることがよくあります。聞けない場合は、お礼のメールや相談の最初の一言を見返すだけでも材料になります。

ステップ3:競合との違いを確かめる

同じ悩みを持つ人が、他にどこへ相談するかを3社ほど見ます。サイトの一行目と、強みとして書いてある言葉を並べて、「どこにでも言えること」を消します。残ったものが、あなたの独自性の候補です。

ステップ4:一文にする

次の形に当てはめて、まず10個ほど雑に書きます。

〈だれ〉が〈どんな状況〉のとき、〈どんな価値〉を、〈どんなやり方〉で届ける。

きれいな言葉にしなくて構いません。後で削ります。10個のうち、いちばん「自分たちの話だ」と思える1つを残します。

ステップ5:声に出して確かめる

一文ができたら、社内の人と、できれば社外の身近な人3人に、声に出して伝えます。見るのは次の2点です。

  • 聞いた人が、あなたの会社を自分の言葉で言い直せるか。
  • 「ほかの会社でも言えそう」と言われないか。

言い直せない、あるいは「どこでも言える」と言われたら、ステップ3に戻ります。

6. 良いコンセプトと、伝わらないコンセプト

良いコンセプト 伝わらないコンセプト
長さ 一息で言える 長くて覚えられない
中身 だれに何を、が分かる 「信頼」「革新」「想い」の言葉が並ぶだけ
独自性 他社には言えない どの会社にも当てはまる
使い方 判断の物差しになる 飾りで終わる

とくに「きれいな言葉の並べすぎ」には注意してください。「想いをカタチに」「お客様に寄り添う」は、どの会社でも言えます。そのコンセプトを、会社名を隠して読んだとき、どの会社のものか分かるかどうか。これが簡単な見分け方です。

7. 事例で見る

大きな会社の言葉は、真似をするためではなく、「言葉が短く、判断に使えているか」を見る材料として読みます。以下は公式の言葉だけを引いています。

ユニクロ「LifeWear」(2016年8月15日の公式発表より)
– 「服に個性があるのではなく、着る人に個性がある。」
– 「私たちの服は、作り手ではなく、着る人の価値観から作られる服です。」
– 「考え尽くされたシンプルな服が、あなたの生活をより良く変えていきます。」

見どころ:着る人を起点に服を考える姿勢が分かります。

QBハウス(公式サイトの言葉より)
– 「10分の身だしなみ」(サイトタイトル)
– 「メニューは1つ ヘアカットだけです。」

見どころ:「何をしないか」が言葉に出ています。メニューを1つに絞る、という選び方そのものがコンセプトになっています。

小さな会社が学べるのは、規模ではなく「短く言い切る」「やらないことも決める」という形です。

8. 小さな会社の書き方例(架空)

実在しない例です。実績や数字は入れていません。

  • 町の税理士事務所:「小さな会社の社長が、数字の不安なく本業に集中できるよう、毎月の報告を一枚で届ける。」
  • 地方の工務店:「子どもが生まれたばかりの家族が、子育てと、その先の暮らしに合う家を、顔の見える職人と建てる。」
  • ひとりのデザイナー:「広告代理店を知らない小さな店が、はじめて作る看板・メニュー・サイトの見た目を、一人で一貫して整える。」

どれも、「だれが」「何を」「どうやって」が入っています。ここから名刺の一言やサイトの一行目に、そのまま使えます。

9. 作ったあとの使い方

コンセプトは、作っただけでは意味がありません。最初の1か月で、次の場所に入れます。

  • サイトの一行目:トップページの最初の文
  • 名刺の裏面・プロフィール文:自己紹介の最初の一行
  • 提案書・見積書の冒頭:「私たちは〜の会社です」
  • 採用ページ:どんな人と働きたいかの説明の前
  • SNSの固定投稿:プロフィールの先頭

入れたあとは、相談の内容に、自社の提供価値への理解が表れているかを確かめます。件数の変化だけでは、コンセプトの効果とは判断できません。

10. よくある質問

Q. 企業理念と同じものを作るのですか?
いいえ。理念は会社の使命や価値観、コンセプトはブランドの提供価値や方向性をまとめた考えです。理念があるなら、そこから導けます。

Q. 自分で作れますか?
作れます。ステップ1〜2の材料集めは、むしろ自分たちにしかできません。言葉が決まらないときだけ、外の人に壁打ちを頼む方法もあります。

Q. いつ見直せばよいですか?
お客さんの層が変わったとき、新しい事業を始めるとき、「うちらしくない」仕事が増えてきたときです。決まった周期を設ける必要はありません。

まとめ

ブランドコンセプトは、飾りではなく、毎日の判断の物差しです。

  • 〈だれ〉が〈どんな状況〉のとき、〈どんな価値〉を、〈どんなやり方〉で届ける、の一文にする。
  • 材料は、今のお客さんが選んでくれた理由。
  • 作ったら、サイトの一行目と名刺の裏に入れる。

まずは、いちばん「いい仕事だった」と思うお客さん1人を思い出すところから始めてください。

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