ブランドストーリーを書こうとして、創業の年表を並べたところで手が止まった。そんな経験はないでしょうか。社長に大きな原体験があるわけでもなく、感動的な物語も思いつかない。それで「うちには要らない」と先送りにしてしまう会社は少なくありません。
結論から言うと、ブランドストーリーは大きな物語がなくても、5つの質問に答えれば約800字で書けます。大手の解説は有名企業の事例を並べますが、小さな会社に必要なのは、お客さんが「だからこの会社に頼もう」と思える、等身大の1ページです。
この記事では、意味とほかの言葉との違い、小さな会社に要る理由、書く前の準備、5つの質問、800字に組む型、使い道ごとの短縮版、よくある失敗、書いたあとの確かめ方、よくある質問をまとめます。
ブランドストーリーとは
ブランドストーリーは、その会社やブランドが「なぜ生まれ、誰のために、何を大切にして、これからどうしたいか」を、時間の流れのある文章で伝えたものです。機能や価格の説明ではなく、背景と思いを物語にして渡すのが特徴です。
似た言葉との違いは、次のとおりです。
| 言葉 | 何を表すか | 形 |
|---|---|---|
| ミッション・ビジョン・バリュー | 目指す姿・使命・大切にする価値観 | 短い言葉 |
| ブランドコンセプト | ブランドの中心になる考え方 | 一文〜短い説明 |
| キャッチコピー | 一言で記憶に残す表現 | 一行 |
| ブランドストーリー | それらが生まれた背景と、これからの約束 | 文章(数百字〜1ページ) |
ミッションなどが「結論」だとすれば、ブランドストーリーは「その結論にたどり着いた道のり」です。結論だけでは伝わりにくい理由を、物語が補います。
小さな会社に要る理由
お客さんがあなたの会社を知るのは、たいてい比べる場面です。サイトを見て、ほかの2、3社と並べて、一つに決める。このとき、価格や機能が似ていると、決め手が残りません。
そこで効くのが、「なぜこの仕事をしているのか」が分かる物語です。数字や機能は他社でも言えますが、自社が見てきた困りごとと、譲らなかったことは、その会社にしか書けません。大きな会社と同じ土俵で戦わなくても、「この人たちなら分かってくれそうだ」と思ってもらえる。それが小さな会社にとってのブランドストーリーの役目です。
書く前に用意するもの
白紙から書き始めると、年表になりがちです。先に次の3つを集めてください。時間は30分ほどで足ります。
- お客さんの声を3つ:お礼のメール、アンケート、口頭で言われたこと。「助かった」「ここが決め手だった」という言葉を、そのまま書き留める
- 創業・開業の経緯のメモ:なぜ始めたか、始める前は何をしていたか。箇条書きで十分
- 断った仕事・やらないと決めたことの記録:断った理由には、その会社の譲れない線が出ます
5つの質問で書く手順
用意した材料をもとに、次の5つに1〜3行ずつ答えます。
質問1 なぜこの仕事を始めたか(きっかけ)
大きな出来事でなくて構いません。「前の職場で、お客さんに本当に必要な提案ができなかった」「家族の困りごとを見た」といった小さなきっかけで十分です。作り込むより、実際にあったことを選びます。
質問2 誰のどんな困りごとを見たか(お客さん)
「誰でも」ではなく、一人の顔が浮かぶくらいに絞ります。どんな場面で、何に困っていたのか。ここがぼやけると、物語全体がぼやけます。
質問3 何を譲れなかったか(こだわり・やらないこと)
ここがブランドストーリーの芯です。「納期より仕上がりを取った」「安さを売りにする依頼は受けなかった」など、何かを選んだ結果として残った線を書きます。良いことばかり並べず、犠牲にしたことを一つ入れると、言葉に重みが出ます。
質問4 お客さんは何が変わったか(変化・声)
用意したお客さんの声から、一つ選びます。「売上が上がった」といった数字は、確かな根拠があるときだけ。なければ、「相談してから、迷いが減った」のような、実際に聞いた言葉を使います。
質問5 これからどうしたいか(約束)
最後は、お客さんへの約束で終えます。「だから私たちは、これからも〇〇を続けます」のように、質問3の線とつながる一文にします。
800字に組む型
5つの答えを、次の4つのブロックに並べ替えます。
| ブロック | 内容 | 目安の字数 |
|---|---|---|
| 序 | きっかけ(質問1) | 150字 |
| 転 | 困りごとと、譲れなかったこと(質問2・3) | 300字 |
| 今 | お客さんの変化(質問4) | 200字 |
| 約束 | これから(質問5) | 150字 |
以下は、架空の会社を使った短い例です(実在の会社・数字とは関係ありません)。
前の職場で、私は何度も同じ場面に立ち会いました。小さなお店の店主が、チラシの見積もりを前に「これで本当に効くのか」と黙り込む場面です。
私は、効くかどうかを一緒に考えてから作る仕事がしたくて、独立しました。
開業して最初の年、安さだけを求める依頼を何件か断りました。売上は減りましたが、相談から始める依頼が増えました。
いまお客さんからは「作る前に整理してもらえて、迷いが減った」と言っていただいています。
これからも、作る前に聞くことを、いちばん大切にします。
このくらいの量で十分です。上手な文章にするより、事実が先、形容詞は後を守ってください。
使い道ごとの短縮版
800字を書いておけば、場面に合わせて削れます。
- サイト:「私たちについて」に全文。トップには最初の2文だけ
- 会社案内:質問3と5を中心に、300〜400字
- 採用:質問1と3、そして「どんな人と働きたいか」を一文足す
- 名刺・SNSのプロフィール:質問3の一文だけ。例「作る前に聞く、を譲りません。」
よくある失敗と直し方
| 失敗 | 起きること | 直し方 |
|---|---|---|
| 盛る | 読む人に嘘の気配が伝わる | 実際にあったことだけに絞る |
| 年表になる | 出来事の羅列で、思いが見えない | 質問3(譲れなかったこと)を中心に組み直す |
| 自社が主人公になる | 自慢に読める | お客さんの困りごと(質問2)から始める |
| 形容詞だけ | 「誠実」「情熱」では他社と区別できない | 「何をした」「何を断った」の事実に置き換える |
書いたあとの確かめ方
完成したら、次の3つを確かめます。
- 社員(またはスタッフ)に読んでもらい、「うちらしい」と言えるか
- お客さんの一人に読んでもらい、「どんな会社か」を一言で言ってもらえるか
- 質問3の「譲れなかったこと」が、いまの仕事の進め方に実際に出ているか
3つ目が合わないと、言葉だけが浮いてしまいます。ずれがあれば、物語ではなく仕事の方を直す合図です。
よくある質問
原体験がない場合はどうしますか。
劇的な出来事は必要ありません。質問2〜4の、お客さんとの実際のやり取りだけでも成り立ちます。
創業者が前に出たくない場合は?
主人公をお客さんの困りごとにして、「私たち」を主語に書けば、個人を出さずに書けます。
リニューアルのときはどう書きますか。
昔の話を全部書き換えず、「これまで」と「これから」を分けます。変えないこと(質問3)を一つ明記すると、ぶれません。
他社と似てしまいませんか。
似るのは形容詞でまとめたときです。質問3の「断ったこと」と、質問4の「お客さんの言葉」は、他社と重なりません。
まとめ
ブランドストーリーは、大きな物語ではなく、お客さんの困りごとと、自社が譲らなかったことを、約800字で書いた1ページです。
- 先に、お客さんの声3つ・創業の経緯・断った仕事を集める
- 5つの質問(きっかけ・お客さん・譲れなかったこと・変化・約束)に1〜3行で答える
- 序・転・今・約束の4ブロックに並べ、事実を先、形容詞を後にする
- サイト・会社案内・採用・名刺に合わせて短くする
次の一歩は、今週、お客さんの声を3つ書き出すことです。それが、最初の1ページの材料になります。
あわせて読みたい:ブランドコンセプトとは/USPの作り方/ミッション・ビジョン・バリューの作り方/会社案内の作り方